マンション全体の長期修繕計画を作成する中で、機械式駐車場の維持管理が大きな問題を含む場合がある。例えば、
[1]駐車場使用料(収入)と、維持管理費(支出)の収支が取れず、将来破たん状態が予想される。
[2]駐車場使用料が、マンションの管理費に積み立てられ、機械式駐車場の赤字で管理費不足に陥る。
[3]マンション居住者の車離れにより、駐車場使用料が減り、維持管理費が捻出できない。
各問題を考察してみると、
[1]維持管理は、新築時の施工会社又は系列メンテナンス会社が行う事が多い。機械式駐車場装置は駐車場法が適用されるが、建築基準法が適用される昇降機(エレベーター)のように法的な点検義務は無い。契約は昇降式、昇降横行式で年間定期点検回数4回、6回(タワー式の場合は、年6回、12回)程度行われる。
契約種類はPOG(パーツ、オイル、グリース)と、フルメンテナンスがあるが、一般的にはPOG契約で注油を主体とした契約が結ばれる。契約金額は、昇降式、昇降横行式で、10,000〜20,000円/台・年、タワー式で25,000〜30,000円/台・年程である。郊外型マンションの駐車料金は10,000円/台・月 前後の設定であるので、年間定期点検費用は、駐車料金で十分まかなえる。
次に機械式駐車場の長期修繕に必要な費用だが、機械部分の減価償却は15年と定められており、その他の部品についても予防保全の見地から各メーカーが耐用年数を決め、修繕工事の重要性を提案している。
主要部品の交換周期表 昇降・横行式(電動式)
|
部 品 |
交換周期 |
重要保安部品 |
ローラーチェーン及び付属品 |
7〜15年 |
駆動関係部品 |
軸受け類(パレット用ベアリング、駆動シャフト用フランジユニット、安全ゲート用部品、 |
7〜10年 |
〃 |
モーター |
7〜10年 |
〃 |
パレット昇降ガイドローラー、横行ローラー |
5〜10年 |
電気関係部品 |
操作キーシリンダ、押しボタン、漏電遮断機 |
3〜5年 |
〃 |
リミットSW、光電管、基板類 |
5年 |
〃 |
パレット給電ケーブル、落下防止装置、 |
5〜10年 |
上記 主要部品の交換周期表 は屋外設置、使用頻度 4回未満/パレット・日の条件付きで、30年間の主要部品の交換費累計は、3,000,000円/台 程度となる。
機械駐車場の機械部分の減価償却は15年だが、20年前後で更新が必要となる例が多く機械方式、合計台数にもよるが更新工事費は 1,200,000円/台 (主要部品の交換費累計に合わせ更新工事費を30年に換算すると 1,800,000円/台)となる。
駐車場1台当たりの、30年間の収支を整理すると
【収入】 |
|
|
|
駐車場使用料 |
10,000円/台・月×12月/年×30年 |
= |
3,600,000 |
|
|
|
|
【支出】 |
|
|
|
年間定期点検費用 |
10,000円/台・年 × 30年 |
= |
300,000 |
主要部品の交換費用 |
|
|
3,000,000 |
機械部分の更新工事費用 |
|
|
1,800,000 |
|
|
|
5,100,000 |
上記のように、 3,600,000-5,100,000= -1,500,000 円/台 の赤字となる。
マンションの機械式駐車場会計は、今まであまり注目されておらず、長期に渡る保全工事計画が作成されているマンションも少ない。保全工事計画が有る場合でも、新築時に施工した機械式駐車場メーカー主導で作成され、世間相場からかけ離れた費用が計上されている場合もある。マンション管理組合は、早めに見直しをする必要があると思われる。
[2]駐車場使用料が、マンションの管理費に組み込まれている例が多い。機械式駐車場を使わぬ、平置き駐車場主体のマンションの場合、維持管理費が舗装修理、駐車スペースの白線引き直し、照明器具修繕程度に限られ支出が少ない。従って、収支の黒字分が管理費に加えられ、居住者全体の利益につながり問題は無い。
一方、機械式駐車が主体のマンションの場合、前述[1]のように駐車場収支が赤字に陥る場合が有る。駐車場料金収入を、管理費会計に加算しているマンションでは、駐車場の赤字で管理費不足が生じる恐れがある。また、駐車場料金を修繕積立金に加算している場合は、建物全体の修繕工事が十分に行えない事が起きるかもしれない。どちらの場合も管理費、修繕積立金の値上げが必要になる。ここで問題となるのは、駐車場は全居住者が利用していない場合が多く (駐車場台数が全住戸分無い、車を所有しない居住者がいる) 駐車場収支の赤字分を、全居住者で負担するのは受益者負担の原則から外れ、公平性が保たれなくなる。
大規模マンションで、機械式駐車場の占める割合の高いものでは長期修繕費の最高支出が駐車場維持費になると思われ、その収支会計は、管理費、修繕積立金とは分離して明確に運用する事が望まれる。
[3]マンション居住者の車離れ。少子高齢化は、回避される有効な政策が打ち出される様子もなく日本全体が高齢化社会に向かっている。マンション単体に目を移しても、築後30年以上の建物の居住者は高齢化が進んでおり、子供が自立し、定年を迎えると車の必要性が低くなり、手放す決断をする方が今後も増えると思われる。また、若者世代の車への興味が薄れ、運転免許を取らない人も増加しているようである。今後、マンション内の駐車場需要は下がり、空き駐車場対策も必要になると思われる。駐車場使用料収入減に対し、機械式駐車場の場合維持修繕費は下がらない、その問題に直面しているマンションでは下記のような対応をしている所が有る、
- 昇降式駐車場のピット部分の使用を取りやめ、地上の平置き部のみの使用に限定。(安全に利用するため、機械式駐車場装置を撤去しピット埋め戻し)
- 近隣のマンション居住者以外に貸出。(セキュリティーの問題が有る場合有り)
以上、マンションの機械式駐車場の長期的維持管理について話を進めて来た。機械式駐車場の方式、設置条件(屋外、屋内)、全体規模(台数)により長期的維持管理は内容、金額に相当なばらつきが有るとおもわれる。しかし、30年間で1住戸当たり数百万円の出費が必要で有る事からも、各マンション管理組合は早期に機械式駐車場の長期保全工事計画を策定する必要があると思われる。
|