はじめに
マンション(区分所有形式の集合住宅)再生化の活動が30数年を過ぎ、設計コンサルタント・施工業者・メーカーも基礎段階の知見、技術、再生への企画、計画、実施、アフターフォローの流れを修得した。今後は今までに蓄積したデータを如何に生かすかを考える段階にある。しかし、マンションの区分所有者、管理組合理事会、修繕委員会が自分のマンションの再生化に取り組む共通意識・知識が欠落しており、今後の対応により資産価値のある又快適、安全、安心のできる住家を手に入れることができると考える。そのための提言をいくつかここに述べさせていただく。
1.管理組合の組織・体制を熟知する
従来マンション1棟の住戸数が平均50戸〜100戸内外が最も多く建設されてきた。小中規模なマンションでは区分所有者が高齢化し理事会、修繕委員会の組織が機能不全を起こしている組合が多く見受けられる。又はもめごとが多く、組織が分化しているケースもあり、その実状を設計コンサルタントは把握し、総会等に積極的に出席して区分所有者の全員の協力を得ること、又過去の総会資料や管理記録を十分に活用し、理事会での理事経験者の活動内容を対話などから汲み取り、大規模修繕工事への関わり方を協議することなどにより、組織体制のあり方を改善する。そのためには設計コンサルタントは管理組合関係者と数少ない接点を有効に生かすための経験が要求される。
2.診断調査と現場調査の違い
管理組合理事会は大規模修繕工事を行う前に診断調査を行う決議を総会ではかるが、診断調査の動機を理解して着手する。動機は[1]のケースと[2]のケースがある。
[1]長期修繕計画(長計という)で示されている時期に修繕を行うべきかの判断材料を得るための劣化診断であり、診断は修繕内容、修繕方法、概算工事コストが長計に示されている工事費用でまかなえるのか等を確認する調査である。これらの調査は長計の見直し作業で行うものである。
[2]各個所で配管より漏水事故が頻繁に起こっている。又は機器不全によるトラブルの多発等により修繕を前提とした劣化診断がある。[2]の場合には修繕計画を策定するために精度の高い現場調査と診断調査が要求される。特に排水設備の修繕計画を立案するために専有部の排水立管、通気立管、最上階の通気管と換気ダクトの位置等の調査を行うために居住者の協力を得るための理事会のサポートや新たな点検口の設置等に強力な理解が望まれる。
又、特に実施設計図書を作成する段階でも現場調査(施工図面での管材料、継手材料、管径との整合性)を再度行うことが困難である管理組合ではなおさら診断調査と現場調査を同時に行うことが要求される。
3.設計図書作成への関与及び関心度を高めるために
管理組合の理事会、修繕委員会が設計コンサルタントとの関わりを積極的にもってもらうことにより設計図書の精度が上がる。不明確な図面や詳細な施まりを検討していない図面では、施工業者が現場で行う作業内容の理解度が違い、スケジュールの短縮やコスト低減の要因につながらない。理事会、修繕委員会のメンバーは日常生活を送っている場所であり修繕の視点で関心を持っていただければ、設計者へ有益な意見を述べていただける。そのことで設計図書の精度が上がることになる。又、得てして理事会、修繕委員のメンバーは会議の議事録を取らず設計コンサルタントに任せている傾向が強いが両者で議事録を取り整合することにより内容の理解を得られ、設計内容の関心度を高めることができる。その他仕様書を確認するために工場見学を行うことにより、理事会、修繕委員から居住者への情報発信となり再生化に取り組む共通意識を育む手助けとなると考える。 |