集合住宅の設備騒音の困った出来事 |
平成25年3月1日
株式会社エー・アール・シーエンジニアリング 一級建築士事務所 代表 石橋 正義 |
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設備騒音は、一般的に稼働時は定常騒音である場合が多い。今回対象としたのは、住宅用エアコンの室外機や換気設備などから発生する定常的な騒音についての近隣騒音と都条例の「騒音規制基準」について、近隣問題となった事例をもとに報告します。
1.24時間換気
特に最近では内装に合板その他板状に成形された建材を使用する建物は、機械式換気設備の設置が義務付けられている。通称「24時間換気」と呼ばれているものである。
機械換気では、第三種換気(給気は自然により行い(開口部)、排気は機械により行う方式)が一般的である。
機械換気設備の容量を決定する場合には、ガス設備に必要なレンジフードの排気設備は、ガス機器のガス消費量から算定し、居室にあっては基本的には1人当たり時間当たり20m3の新鮮空気の導入をしなければならないことになっている。さらに、シックハウス対策として住戸全体を換気対象とする場合には、換気回数0.5回/hを基準としている。
尚、局所換気設備の対象となる台所、浴室、洗面所、トイレは、全般換気と異なり、必ずしも常時稼働の必要はなく、その水廻りスペースの使用時に稼働できればよい。これに対して24時間換気は、浴室等の換気装置を全室換気に使用し、常時稼働していなければならない換気装置である。
2.換気設備の構成
代表的な換気構成例として、トレイ、洗面所、浴室、換気系統を1本化して、浴室換気ダクトに接続して換気する場合、換気量は建築基準法に定められている1時間当り0.5回換気を行う基準を下回らないように努めなければならない。さらに、換気ダクトの圧力損失(抵抗)などを考慮して、換気量を多めに見込んでおく必要があるため、24時間常時換気量計算を各住戸面積毎に算出して設計風量を満足させるとファミリータイプ住戸は、一般的に120m3/hとなる。換気量としては、局所換気の台所のレンジフードの換気量の1/3程度のレベルである。
3.24時間換気・常時稼働時の発生騒音
今回、測定調査する機会のあった測定事例の結果を示す。
- 測定を行ったマンションの用途地域は、第1種中高層住居専用地域で、前面道路は生活道路の1車線で、ほとんど車の往来は無い閑静な住宅地である。換気設備騒音の影響のないエリアでは、外部騒音は40デシベル前後である。
- 各住戸の24時間換気の稼働状況を午前10:00〜午後7:00までの10時間に渡り30分間間隔で稼働点検した結果、「強」稼働76%、「弱」稼働20%、「停止」4%の稼働比率であった。
- マンションの開放廊下手摺より6.3m離れた道路境界線上、高さ4.5m(戸建て2階窓相当)の測定点の騒音レベル51〜52デシベル、さらに、6.3mに道路幅6.1m=12.4m離れた道路反対側の道路境界線上、高さ4.5mの測定点の騒音レベル:50デシベルが測定された。
- マンションの長手方向(開放廊下)に均等の長さで5点並列に測定を行ったが、騒音レベルの値は50デシベル前後とほぼ同じ値であった。
- 換気設備音源である開放廊下内の上部換気ガラリの直近1.0m離れにおける騒音レベル:60デシベルである。
4.都条例による規制基準との関係
- 騒音規制法や公害防止条例以外に、騒音に係る「環境基準」というものがある。人の健康を保護し、環境を保全する上で維持することが望ましい基準を定めたものである。「環境基準」は、もともと行政施策の達成目標値としての意味合いで定められていたものが、現在では裁判の受忍限度の判断でも、この「環境基準値」が採用される場合が多く見られる。
- この環境基準を踏まえて、各都道府県でも条例で「規制基準値」を設定して対応している。東京都では、平成12年12月22日付条例215号「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」では、特に第1種区域:第1種・第2種低層住居専用地域等、第2種区域(第1種・第2種中高層住居専用地域)に該当する区域では、音源の存する敷地と隣地との境界線における音量を規制している。第1種区域では、午前8時から午後7時までは騒音レベル:45デシベル以下、午前6時から午前8時までは40デシベル以下、午後7時から翌日午前6時までは40デシベル以下と設定されている。第2種区域では、午前8時から午後7時までは騒音レベル:50デシベル以下、午前6時から午前8時までは45デシベル以下、午後7時から翌日午前6時までは45デシベル以下の規制基準を設定している。
- 規制基準値に示すように、騒音の音量(騒音レベルの大きさ)で判断することから、換気設備等の騒音は、もともと行政的規制に馴染む騒音であることが背景にある。
- 調査結果から、第2種中高層住居専用地域に該当する区域であることから、夜間・早朝の伝搬騒音が「規制基準値:45デシベル」を5デシベル超えていることが確認された。
5.伝搬騒音の予測方法
伝搬騒音断面検討図に基づいて実測値の測定点の位置における伝搬音の予測を行う方法を示す。
(下図はクリックすると、大きくご覧いただけます。ブラウザの[戻る]ボタンで当ページへお戻りください。)

5−1.音の伝搬と減衰
音は音源から遠ざかるに従い小さくなる。距離による減衰量は、小さい音源は「点音源」と呼び、音波は球面上に拡がって伝わる。
換気ガラリから発生する騒音は、発生源がダクトから発生する音であることから、点音源的減衰をする。距離減衰の算出は点音源の理論式を用いる。
5−2.dB(デシベル)値の足し算
騒音レベルはエネルギーそのものではないので、そのまま単純に加えることはできない。そのため、一度エネルギーに換算して加え、再び騒音レベルに換算する。
6.測定結果
- マンションの換気設備騒音は、机上計算予測値を求めるための計算から求めた換気ガラリ、縦・横、3住戸×3住戸=9住戸の発生騒音のパワー和の計算結果は、換気ガラリから一定距離の地点の伝搬騒音レベルの実測値の50デシベルとほぼ一致する。
- よって、全住戸の換気設備の発生騒音のパワー和の計算結果も9住戸分の計算結果もほぼ同じ値となり、建物からの換気設備騒音は、縦・横、3住戸×3住戸分、都合、9住戸分のパワー和の計算にて予測できる。
- 24時間換気・換気ガラリの発生騒音の60デシベル及び伝搬騒音特性から「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(平成12年12月22日 条例第215号)の日常生活等に適用する規制基準に抵触する場合が想定されることから、設計上の注意が必要である。特に、第1種区域、第2種区域に建設予定の集合住宅は要注意!
7.事後の対策として考えられる換気方策と問題点
- 24時間換気は、全戸・常時稼働の設備であるため、第2種区域では5デシベル低減させて夜間の規制基準値を満足させるためには、ランダムに全戸数の35%以下の24時間換気設備稼働に制限しなければならない。よって、現実的ではない。
- 換気量を半分に下げて、120m3/hを80m3/hに設定切り替えても、2〜3デシベルの低減量しか期待できない。また、要求換気量を満足することが出来ない。
- 換気ガラリのダクトトップに防音カバーを設置する。換気設備騒音の卓越周波数が1kHz帯にあることから、5デシベルの低減量は可能である。しかし、防音カバーにより風量の流れが下向きとなり、換気ダクトの圧力損失の影響が考えられる。現場にて確認する必要がある。
<参考文献> |
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建築物の遮音性能基準と設計指針 第二版 |
日本建築学会編 |
技報堂出版 |
近所がうるさい!騒音トラブルの恐怖 |
橋本典久著 |
KKベストセラーズ |
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(八戸工業大学 大学院教授) |
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