フェライト系ステンレス鋼鋼管SUS430LXTPを使用した雨水排水管の紹介 |
2020年12月4日
ノーラエンジニアリング株式会社 技術部 新井 隼介 |
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1.はじめに
従来,マンションに設置される雨水排水管は,バルコニー等の露出部に配置される場合は排水用ポリ塩化ビニル管(カラーVP),中・大規模のタワーマンションの屋内隠蔽部等に設置される場合は炭素鋼鋼管(SGP)や硬質塩化ビニルライニング鋼管(塩ビライニング鋼管)が主に使用されていました。SGPと塩ビライニング鋼管は,腐食による減肉の影響があるため,厚肉にする必要があることから管が重くなり,長寿命化及び施工性向上という要求に対しては難しい問題を抱えていました。一方,ステンレス鋼鋼管は適切な環境にて使用すれば腐食が発生しないため,厚肉にする必要がなく管の内径を大きくとることができ,また,錆による管内面の表面粗さの増大がないため,摩擦損失の増大の影響がありません。従って,ステンレス鋼鋼管は軽量化及びサイズダウンの検討が可能となり,施工性に優れると考えられます。
当紹介では,ステンレス鋼鋼管の中で特に雨水排水管に多く実績のあるフェライト系ステンレス鋼鋼管SUS430LXTPについて紹介いたします。
2.フェライト系ステンレス鋼鋼管SUS430LXTPとは
今日まで建築設備配管に使用されてきたステンレス鋼鋼管は,主にオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304を使用したステンレス鋼鋼管が多く使用されてきました。SUS304は18 %〜20 %のクロム(Cr)と8 %〜10.5 %のニッケル(Ni)を含んでいるオーステナイト系ステンレス鋼であり,SUS304は給水,給湯などの衛生設備配管をはじめ,冷温水,冷却水,蒸気還水等の空調設備配管や,スプリンクラー,連結送水管などの消火設備等,配建築設備配管の多くの系統で使用されてきています。
対して,SUS430LXはNiを含んでいないフェライト系ステンレス鋼です。世界的にもレアメタルであるNiは非常に高価格であり,Niを含んでいるオーステナイト系ステンレス鋼は,Niの価格に左右されることがあります。一方,フェライト系ステンレス鋼は,Niを含んでいないため,比較的低価格でNiの価格に左右されることがほとんどありません。ただし,SUS304と比較して耐食性に劣ることから,塩素系の物質が少ないマイルドな環境の配管系統に使用されています。主に雨水排水管,密閉式冷却水配管,冷温水配管等の従来SGPが使用されてきた系統です。
表1にSUS304とSUS430LXとSGPの化学成分を示します。
3.雨水排水管の近況
雨水排水管はマンションに限らず,数多くの建築物に設置されます。平成27年に「最下階床下等で雨水の一次的な貯留に活用できる空間を有する新築建築物において雨水利用施設の設置率を原則100%とする」という法律が国土交通省の閣議決定により施行されたためです。図1に雨水利用施設のイメージ図を示します。
近年はゲリラ豪雨の頻度が増えた影響で,雨水排水管径の決定に使用する設計降雨量が非常に大きくなってきています。設計降雨量の増大に伴い,雨水排水管径が非常に大きくなっており,厚肉であるSGPでは重量の問題から施工性が悪くなっています。従って,施工性の向上のため,SGPからステンレス鋼鋼管への材料変更の機会が増えています。
4.フェライト系ステンレス鋼鋼管SUS430LXTPを使用した雨水排水管の特徴
SUS430LXTPを使用した雨水排水管は次のような特徴があります。
1) 高耐久性
SUS430LXはステンレス鋼であり,SUS304と同様に表面に不動態被膜を持ちます。不動態被膜があることにより,適切な環境すれば耐食性を持つため,SGPを使用した雨水排水管と比較して高耐久性が期待できます。
2) 低コスト
図2にSGP白とSUS430LXとSUS304の耐食性とコストの関係を示します。
SUS430LXはSUS304と比較するとコストが下がり,材料変更対象のSGP(SGP)と比較すると若干のコストアップに抑えることが可能となっています。また,先述の通り耐食性があるため,SUS304に材料変更した場合に比べて経済的に耐食性及び耐久性を得ることが可能となっています。
3) 施工性の向上
SUS430LXTPの配管材は,すべて工場のプレハブ加工によって製造されます。実際に配管を接続する際にはボルト・ナットによって接続を行うのみとなるため,現地での切断,溶接及びねじ切り等の加工が不要となります。よって,管の加工に熟練した作業員は必要なくなり,作業時間の短縮になります。さらにSGPに比較して軽量であるため施工性が良くなり,運搬作業,接続作業を行う際に同時に必要な作業員数が減るため,作業性が良くなります。
5.SUS430LXTPを使用した雨水排水管径の決定
雨水排水管径は,主に空気調和・衛生工学会規格SHASE-S 206-2019(給排水衛生設備基準・同解説)の方法に従い決定されます。表2に雨水立て管の管径,表3に雨水横管の管径を示します。
SUS430LXTPを使用した雨水排水管径の決定は表4及び表5を使用して決定します。
なお,表5は流速に関して0.6 m/s〜1.5 m/s以内に入っていない範囲に対しても,許容最大屋根面積を記載した表となっており,流速が0.6 m/s〜1.5 m/s以内に入っている範囲は,太線で囲まれた範囲となっています。
6.おわりに
作業員の高齢化や技能伝承が問題となる中,配管材の軽量化による施工性の向上は今後も必要になると考えられます。雨水排水管を含むSGPを使用してきた系統は,特に施工性の向上が継続して求められていくと考えます。
参考文献
- 国土交通省,国及び独立行政法人等が建築物を整備する場合における自らの雨水の利用のための施設の設置に関する目標について,(2015年3月10日閣議決定)
- ノーラエンジニアリング株式会社,フェライトステンレス配管SUS430LXカタログ
- Robert S. Wyly and Herbert N. Eaton,Capacities of Stacks in Sanitary Drainage System for Buildings,National Bureau of Standards Monograph 31(1961)
以 上 |