マンション設備リニューアルの課題 |
令和元年5月1日
小池技術士事務所 代表 小池道広 |
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1.はじめに
マンションはアパートに対して鉄筋コンクリート造(RC)造の分譲集合住宅として高級イメージを持たせるための言葉として使用された。一説には1960年「市ヶ谷マンション」が売り出されてから、中高層の集合住宅を表す名称として今では一般的になっている。
マンションが大量に供給され始めたのは1960年代後半から、本格的に普及し始めたのは1970年以降であると考えられている。RC造の分譲集合住宅がはじめて出現してから100年近く経過した現在、マンションの大規模修繕や、建替え等の「マンションのリニューアル」の重要性が増している。
国土交通省の建築着工統計をもとにした「分譲マンションストック数」の推計から、2017年(平成29年)末で累計戸数は644万戸、居住人口は約1,501万人と推計されている。今やマンションは都市型住宅として定着していることがわかる。
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2.マンションリニューアルの必要性
マンションの構造躯体である鉄筋コンクリートは頑丈で手入れなど不要と思われがちであるが、メンテナンスせずに放置しておくと、表面のひび割れから雨水が浸透しコンクリートが中性化により、内部にある鉄筋が錆びて膨張しコンクリートの破壊(爆裂)が進行し、建物の構造安全性が著しく低下する。また、屋根やバルコニーの防水の損耗による雨漏りや、給排水管の配管の腐食や詰まりによる漏水や溢水など居住者の日常の生活に大きな影響を及ぼすこともある。
マンションの老朽化には経年により起こる建物の部材や設備機器・配管の物理的劣化と、人の生活水準の向上により居住性能が対応しきれなくなる社会的劣化がある。マンション設備の老朽化への対応は、大規模修繕による設備機器・配管の更新となる場合が多いが、一般的には、管理会社やリフォーム会社に委ねられているものが多い。
マンション設備のリニューアルはグレードアップを含めて改修計画が重要である。給水設備であればシステムの変更により受水槽やポンプ室をなくし、その部分を駐車場などに用途変更(写真1、写真2)を行う場合がある。排水設備であれば通気立て管方式から集合管方式に変更することによりパイプスペースが小さくなる等の効果を享受することもあり、逆に、躯体や仕上げを含めた建築工事への影響や、電気設備の変更を伴う道連れ工事が発生することもある。一方で、居ながらにして如何に断水・停電等の生活停止時間を少なくすることや、はつり工事で発生する騒音や粉塵等を少なくすることがリニューアルを計画する上で重要である。マンションは戸建て住宅に比べ規模が大きく多数の区分所有者がいるため、合意形成に時間がかかるため、早めの取り組みが必要である。
3.マンション設備リニューアルの課題
リニューアルの計画は物件の諸条件が異なり、それらの優先順位からリニューアルの課題や進め方も多様となる。十分に検討を行いリニューアルの計画を進める。
(1)給排水システムの選定
- 新しい技術を利用しメリットある給排水システムを検討する。
- ランニングコストの低減や将来的な維持管理、可変性、更新性を考慮したシステムの選定も重要である。
(2)高耐久な材料の選定
- 一度劣化によるリニューアルを経験した管理組合に対して、同じ材料やシステムでリニューアルを提案することはなかなか難しい。技術開発によりほとんどの材料が竣工時の技術と比較し、現在の技術の方が品質、コストともに改善されているものが多い。
- 高耐久の材料に更新したことにより、その後の長期修繕計画を変更することも可能となる。
(3)居ながらでのリニューアル
- 断水、停電等生活停止期間、生活停止時間を短縮する方法が必要となる。昼間に工事を行い、夜間は炊事、入浴等があるため通水可能とすることが基本条件となる。
- 施工時間短縮を目的に配管のプレハブ加工、接続が容易な継手の採用も検討する。
(4)意匠性の配慮
- 給水管のルートはメーターボックス等の隠蔽部が意匠上好ましいが、納まりが厳しい場合、ガス管や電気配線の移設を伴う場合がある。また、工期的に短期間に施工ができる等の理由により、露出配管を余儀なくされる場合がある。
- 隠蔽部にある設備のリニューアルは建築の更新が伴う場合が多く、その後の仕上げの補修を軽減する更新方法の計画が必要である。
(5)騒音、粉塵の低減
- 作業時の騒音・粉塵を低減することはその住戸だけではなく、周辺の住戸及び近隣にも影響を与えるため、低騒音の工具や工法、粉塵を発生させない対策等の技術開発が必要となる。
(6)石綿が使用された建築物等の解体等の作業・・・労働安全衛生法関係
- 解体、改修を行う建築物に石綿が使用されているか否かについて、事前調査を行う。
- 石綿が使用されている建築物の解体、改修を行う前に労働者へのばく露防止対策等を定めた作業計画を定め、これに従って作業を行う。
- 石綿が使用されている建築物等の解体等の作業に従事する労働者に、石綿の有害性、粉じんの発散防止、保護具の使用方法等について特別教育を行う。
- 石綿作業主任者を選任し、作業方法の決定、労働者の指揮等の業務を行わせる。
- 石綿を含む建材等の解体をする際に、労働者にばく露を防止するための呼吸用保護具、作業衣または保護衣を着用させ、粉じんの飛散を防止するため、建材等を湿潤なものにする。
- 常時これらの作業に従事する労働者について、6か月ごとに1回、特殊健康診断を実施するとともに、1か月を超えない期間ごとに作業の記録を作成する。健診の記録及び作業の記録は30年間保存する
(7)材料搬入の検討
- マンションの高層化に伴い、長ものの配管類の搬入については事前の考慮が必要である。エレベーターで搬入できるか、住戸内で展開できるか、足場等の仮設が必要かを予め調査することが必要である。
(8)経済性
- 以上の課題を整理し、物件毎の優先順位を勘案し、経済性も配慮しながらリニューアル計画を立てる。
参考文献; |
国土交通省HP「分譲マンションストック数」 |
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給排水設備研究会 シンポジウムテキスト「マンション設備リニューアル事例」 |
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