1.実験目的
近年、大型地震が発生した際、天井落下・機器類転倒による被害が確認されている。今後地震が起きた際にそれらの落下や転倒による被害の可能性も予想できる。そのため実験を行い、天井や壁等に取り付けられている機器類の地震に対する強度の確認が必要であると考えている。
現在、多くの超高層ビル及び高層ビルでは、空調機を吊りボルト等で天井スラブに接合し設置している。そこで、その仕様での地震に対する挙動を把握する。また、その空調機の隅各部から45度方向に在来式の振れ止め施工と、リニューアル工事にも適しており、安全性と施工性を重視した新製品「ワイヤーシステム」の施工を行い、この仕様での地震に対する挙動の把握も行う。それで、それぞれの比較により、「ワイヤーシステム」の仕様で振動が抑制できるかどうかの確認を目的とする。
2.実験概要
試験体は、型鋼で製作した試験冶具に、通常の施工条件を再現する。(600mm×600mmの空調機を、上
面より1000mmの位置に吊りボルト(3/8)で設置)で接続し、30F程度のオフィスビルを想定した地震波を再現し、試験体に加える。
上記条件における空調機の振幅、加速度等測定し、試験片における効果を検討する。・地震値を段階的に増加させていき、最終的に、阪神淡路大震災の75%程度の数値にて試験を行う。各試験片における試験回数は3〜5回行う。地震値の段階的な増加については、3〜4段階程度とする。
2−1.試験体仕様
・振れ止めなし
これが今まで多く行われてきた吊りボルトで吊り下げるだけの施工方法。 |
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振れ止めなし |
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・吊りボルト振れ止め
空調機の各隅部から45度方向に吊りボルトを取り付けた施工方法。 |
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吊りボルト振れ止め |
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・ワイヤーシステム
円盤型のワイヤー固定金物にワイヤーを
取り付ける。
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ワイヤーシステム |
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・吊りボルトブレース
吊り下げ用の吊りボルトに、更にブレース
型に吊りボルトを補強したもの。 |
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吊りボルトブレース |
2−2.計測項目
計測箇所を図2.1に示す。振動台加力度 (加力方向1成分)、空調機加速度 (加力方向1成分)、冶具加速度(加力方向1成分)、空調機絶対変位(加力方向2成分、直交方向2成分)、吊りボルト(四本すべての上下端の歪、全八箇所)の箇所の測定を行った。
2−3.加振項目
実際に空調機の多くは高層ビル等に設置されており、
地震時の応答は各階で異なるのが一般的である。そこで、
地上30階の高層ビルを想定し、多質点系モデルの解析を
行い、解析での応答波形であるJMA−Kobe(200GAL・
600GAL)の1階相当波及び28階相当波を振動台に入力
して空調機の挙動を確認する。
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図2.1 |
3.結果
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NO. |
作業内容 |
変位/mm(平均) |
施工時間
/1台(4箇所) |
200gal-1F |
600gal-1F |
200gal-28F |
600gal-28F |
1 |
振れ止めなし |
±63.5 |
±180.6 |
±116.7 |
±251.3 |
- |
2 |
吊ボルト振れ止め |
±2.0 |
±6.2 |
±1.7 |
±5.5 |
28分 |
3 |
ワイヤーシステム |
±1.4 |
±7.3 |
±1.1 |
±2.6 |
15分 |
4 |
吊りボルトブレース |
±17.8 |
±71.9 |
±8.9 |
±25.6 |
23分 |
4.総括
・振れ止め無しの仕様は、以前に述べた吊りボルトのみで支えられている。よって、水平方向に対する抵抗力は吊りボルトの曲げ抵抗のみということになるため、非常に剛性の低いものとなってしまう。その結果が、実験結果に大きく現れていることがわかる。変形を見ると、正負に最大で250mmもの変形を示している。実際に天井面があるが天井面に損傷を与える可能性はないとは言えず、天井落下の可能性があるといえる。
・吊りボルト(振れ止め)、ワイヤーシステムの仕様は、振れ止め無しの吊りボルトのみで支えられている状態に45度方向に吊りボルト、ワイヤーの斜材で固定したものである。今回は、水平方向に対する抵抗力45度方向に斜材ということになるため、非常に剛性の高いものとなった。その結果、波の特性で短周期成分の波形が目立つ結果となっている。変形を見ると、正負に最大で8mm以下の変形を示している。この結果から、斜材の大きな水平抵抗が実証されたといえる。
・今回行った実験において、45度方向に振れ止めを付けることで空調機の応答変位を振れ止め無しに比べて約1/30〜1/100程度まで抑制できることがわかった。また、入力される周期性のちがう波形によって応答にバラツキがみられ、共振による応答値の変動も確認された。しかしながら、天井面に損傷与えたり、接続部分のコンクリート損傷を考えれば、応答変位を約1/30〜1/100程度まで抑制できたことでこれを防ぐことができると考えられるため、補強の信頼性及び必要性はあると言える。
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